先日、東京高等裁判所において、「二重国籍」を認めない国籍法の規定が憲法に違反するとして争われた裁判について、国籍法の規定は憲法違反ではないとして、原告の請求を認めないとの判決が言い渡されました。
今後、原告側は上告をし、最高裁判所の判断を求めていくとのことですが、今回は、国籍全般や二重国籍の問題について見ていきたいと思います。
国籍とは?
①「国籍」とは、人が特定の国の構成員であるための資格をいいます。
国籍の有無は、選挙権や健康保険、税金などに影響します。
また、スポーツの世界でも競技によっては、国籍で「その国の代表となれるかどうか」などが決められているものがあります。
(サッカーなど多くのスポーツでは日本国籍を有する選手が日本代表になれますし、相撲でも日本国籍を有しないと親方にはなれません)
② 憲法第10条は、「日本国民たる要件は、法律でこれを定める」としており、日本の国籍を有するための要件として、国籍法が制定されています。
国籍法では、日本国籍を取得する要件を、「出生」・「届出」・「帰化」としています。
「出生」とは、日本国民の父または母の子として生まれたり、日本国内で生まれた子の父母が不明または無国籍のときに、日本国籍を有するとしています。
そのため、一方の親が日本人の子どもは日本国籍を有することになります。
いわゆる「ハーフ」と呼ばれる子のように、他方の親が他の国籍を有している場合、その子は日本国籍だけではなく、他の国籍も有することがあります。この場合、将来的にどちらかの国籍を選択し、二重国籍を解消することになります(例えば、テニスプレーヤーの大坂なおみさんは、日本人の母とハイチ系アメリカ人の父との間に生まれましたが、日本国籍を選択し、日本代表としてオリンピックに出場したことがありました)。
「届出」は「日本人の親が認知をした子について届け出をすることで、その子が日本国籍を有することができる」制度です。
「帰化」とは「外国人からの意思表示に対して法務大臣の許可によって、日本の国籍を与える制度」です。
つまり、長年日本で生活をしていた外国人が、帰化申請をして日本人となることをいいます。
③ 日本以外の国の国籍を有するための要件は、それぞれの国において定められています。
外国人が日本国籍を取得する方法
上で書いたように、日本の国籍を取得する方法の中に「帰化」があります。
外国人が日本国籍を取得するためには、帰化をする必要があります。
「帰化」をするためには、日本国内に引き続き5年以上居住している必要があります。
そのほかにも、「年齢が18歳以上である(親と一緒に帰化する場合などは18歳未満も可)」、「素行が善良である」、「納税をきちんとしている」などのいろいろな要件を満たしている必要があります。
これらの要件を満たしている外国人は法務局に申請し、認められれば、帰化により日本国籍を取得することになります。
日本国籍を有する人が外国の国籍を取得する方法
上記のとおり、国籍についてはその国の法律で定められています。
そのため、各国の法律によって、国籍を取得する要件は異なっています。
例えば、アメリカの国籍を取得するためには「帰化」が必要となりますが、日本の場合のように、一定期間居住しているなどの要件を満たした上で、その国の機関に申請をすることになります。
二重国籍の問題とは
① このように、国籍についてはそれぞれの国で取り決められています。
そのため、「日本国籍を有する人がある国の国籍を取得する要件も満たす」ということもあります。
この場合に、両方の国籍を有することになれば、その人は日本国籍とその国の国籍の二重の国籍を有することになります。
二重国籍を認めている国もありますが(先の裁判について報じたニュースによれば、195の国と地域のうち、2020年時点で150の国で二重国籍を認めているとのことです。)、日本では二重国籍は認められていません。
国籍法第11条第1項は「日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う」としているため、他の国に帰化した場合には日本国籍を失うことになり、二重国籍とならないようにされています。
② 最初に記載した裁判は、この国籍法の規定は憲法22条に定める国籍離脱の自由(何人も外国に居住し、または国籍を離脱する自由を侵されない)を侵害するものであって、違憲だということが争われました。
裁判所は、第一審、控訴審ともに憲法違反ではないと述べました。
裁判所の判断は以下のようなものです。
● 憲法第10条では「日本国民たる要件は、法律でこれを定める」としている。そのため、国籍の得喪に関する要件をどのように定めるかについては、立法府(つまり国会)の裁量判断に委ねられているから、合理的な理由のない差別的取扱いとなる場合に法律が憲法違反となる。
● 国籍法11条1項の規定の趣旨は、① 重国籍の発生を可能な限り防止しつつ ② 国籍変更の自由を保障するというものである。
● 「重国籍の回避」という目的について、重国籍が生じると、国家間の摩擦を生じるおそれがあるほか、国家と個人との間又は個人と個人との間の権利義務に矛盾衝突を生じさせるおそれがあるといえる(例えば、重国籍者に対しては、複数の国家が権利を持つことになるから、国家間の外交保護権の衝突を招くおそれがある。また、国家は、自国民に対し、納税義務、兵役義務等の種々の義務を課し得るが、重国籍者については、これらの義務が衝突したり抵触したりする事態が生じ得る。)。そのため、目的は合理的である。
● 自らの意思で他の国籍を選択した者について「日本国籍を離脱するという内容については、自分の意思で離脱を回避することができるため、上記の目的との関係で不当な差別とまではいえない」。
つまり、他の国とは異なり二重国籍を認めていない日本の法制度は、不合理な目的、内容ではないから、憲法に違反しないと判断したのです。
③ 最高裁判所で別の判断がされる可能性もありますので、今後の状況を注視しておいた方がいいでしょう。
現在のグローバル社会の中では、離婚や相続など様々な場面で外国籍の人と関わったり、ご自身が国籍を変えるなどということもあるかもしれません。
国籍に関する問題が起こった時は「まちの専門家グループ」の弁護士や行政書士が対応します。お気軽にお問い合わせください。
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