先日、「ゆっくり茶番劇」の商標登録に関するニュースが流れました。
今回はこの件から、商標権について見ていきたいと思います。
「ゆっくり動画」とは
特徴的な二次元のキャラクターが人工音声の対話形式であることの説明をする動画を「ゆっくり動画」や「ゆっくり実況」といいます。
このキャラクターは、もともとは「東方project」というコンテンツから生み出された二次創作だったのですが、その後このキャラクターを使って広くこのような動画に利用されるようになりました。
顔出しをせず、匿名性を保ったまま実況動画を制作できるということで、不特定多数の配信者が「ゆっくり○○」のタイトルでニコニコ動画やYouTubeなどに動画をアップし、広く利用されています。
この「ゆっくり動画」と言うものは、このように動画投稿者が広く文化として利用してきたものといえます。
商標権とは
商標権とは、「文字、図形、記号、立体的形状もしくは色彩またはこれらの結合、音、その他にあった商品やサービスのために使用するもの(商標)」を独占的に利用することができる権利のことをいいます。
商標権は、特許庁によって登録されることによって認められます。ですので、単に商標を使っているだけでは足りません。
また、商標権の登録は商品やサービスごとに行われます。
例えば、「仮面ライダー倶楽部」という商標を、家庭用テレビゲームや仮装用衣服、おもちゃという分類で、バンダイが登録しています(登録当時この名称のゲームソフトが販売されていました)。
ですので、他社が「仮面ライダー倶楽部」という名前のパジャマを売ろうとした場合、バンダイの許諾がなければ、権利を侵害することになってしまいます。
他方、「仮面ライダー俱楽部」という名前のゴルフクラブを販売したとしても、当然にはバンダイの商標権を侵害することにはなりません。
ですので、商品やサービスを提供する場合に、適切に商標権を利用できるようにしておくことが大事になります。
「ゆっくり茶番劇」の商標登録は何が問題だったのか
「ゆっくり茶番劇」に関して、令和4年2月24日、以下のような商標登録がされました(特許公報プラットフォームから一部抜粋)。
登録番号:第6518338号
登録日:令和4(2022)年 2月 24日
出願日:令和3(2021)年 9月 13日
存続期間満了日:令和14(2032)年 2月 24日
商標(検索用):ゆっくり茶番劇
【商品及び役務の区分並びに指定商品または指定役務】
電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,移動図書館における図書の供覧及び貸与,オンラインによる電子出版物の提供(ダウンロードできないものに限る。),図書の貸出し,書籍の制作,オンラインで提供される電子書籍及び電子定期刊行物の制作,コンピュータを利用して行う書籍の制作,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,インターネットを利用して行う映像の提供,映画の上映・制作又は配給,オンラインによる映像の提供(ダウンロードできないものに限る。),ビデオオンデマンドによるダウンロード不可能な映画の配給,インターネットを利用して行う音楽の提供,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番組の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供
商標登録をしたのは「ゆっくり動画」のイラストなどの原作者ではない人物ですが、ユーチューバーでした。この登録者はTwitterにて、
『「ゆっくり茶番劇」を商標登録したこと』、
『今後、この名称を使う場合には年間10万円の使用料を徴収すること』
を発表しました。
この事態に動画投稿者など、インターネットを利用する人は強く反発しました。
また、ニコニコ動画を運営しているドワンゴは記者会見で「ゆっくり茶番劇」の商標権を取得した人物に対する権利の放棄の交渉などを行なうことを発表し、ニュースでも流れるなど、社会的な問題となりました。
それらの動きを踏まえ、この商標登録をした人物は
「5月23日付で商標権を抹消するための手続を行った」
と発表しました。
今回の問題は何が問題なのでしょうか。また、この件から何を学べばいいのでしょうか。
まず、前提として商標権は特許庁によって登録が認められることによって、権利として発生するものです。
権利の申請を誰が行なったとしても、そのこと自体には問題はありません(内容によっては登録が否定されることはありえます)。
権利を取得した人が誰かに権利を使わせる際に、対価の支払いを求めること自体も法的には問題はありません。
このように「ゆっくり茶番劇」の問題は、必ずしも法律的に当然に問題があるわけではないのです。
しかし、先にお話ししたように、「ゆっくり動画」と言うものは動画投稿者が広く用いてきた「文化的なもの」、言い換えれば「公共のもの」と言うこともできます。
それを法的には認められるとしても、「一個人が独占するということは問題である」として、ネット上で議論が噴出したのです。
商標権者となっている人はこのような事態を踏まえて、「商標権を抹消する」こととし、今回の問題は収束しそうです。
ただ、このような商標登録の問題はたまに起こります(北京オリンピックのときにも「そだねー」などが商標申請されたことがあります)。
そのため、
「商品名、ブランド名、サービスの提供において使われる名称などをいかに保護するのか」
という点がとても重要と言えます。
特に、ビジネスがグローバルに展開されている現代においては、商標権の適切な管理はとても大事です。
今回の問題からは、「法律的に問題がない」=「何をしてもよい」ということではないこと、「権利をしっかりと守ること」の重要性を学ぶことができると思います。
ちなみに、商標登録は弁理士が行ないますので、必要に応じて、まちの専門家グループに相談するとよいでしょう。
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投稿者プロフィール
- フットワークのよさに定評のある40代の弁護士4名からなる法律事務所です。専門・得意分野が幅広いことも強みの一つ。分野の異なる法律事務所で研鑽を積み、税理士等他士業と連携体制も取れております。また、セミナーや講演も積極的に行い、良質なリーガルサービス実現を目指しております。事務所は、交通の便が良いターミナル駅JR・東急各線「武蔵小杉駅」から徒歩5分。首都圏エリアのご相談可能です。
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