カルロス・ゴーン元日産会長の逮捕に始まった「日産事件」。
逮捕の決め手となった日本版の司法取引について、どのように機能したのかを解説します。
本件での司法取引の状況
①
報道によると、ゴーン元会長の不正については従前から社内で調査が進められてきており、
その中で司法取引が利用されたようです。
この司法取引を利用したのは、虚偽記載に関与したとされている複数の執行役員とのことです。
複数の執行役員と検察庁が合意をし、それに基づいてこれらの執行役員が供述をしたり証拠を提供したことにより、
ゴーン元会長が罪を犯した嫌疑があると判断され、ゴーン元会長らを逮捕するに至ったものと思われます。
当該執行役員は検察庁との合意に基づき、
検察庁に対する聴取に応じ、自分の持っている証拠を提供したものと考えられますし、
今後の刑事裁判においても、検察側の有罪立証のための証人として出廷することになると思われます。
経済事犯や本件のような組織がかかわる犯罪においては、
なかなか証拠を入手し、全容を解明することが難しいということで、司法取引制度が作られましたが、
本件では、まさに司法取引によって事案が解明されていく可能性があるといえます。
②
ところで検察庁は、どのような場合に司法取引に応じるかについて
「合意制度の当面の運用に関する検察の考え方」というものを示しています。
この「考え方」では、
国民の理解を得られる場合かどうか、
利用に値するだけの重要な証拠が得られる見込みがあるか
などを考慮して、司法取引を利用するかを決めることになるとしています。
日産の事件においても、
上司から指示を受けて有価証券報告書に虚偽記載をした当事者の証言などは重要な証拠といえますし、
日産のような大企業やそのトップの不正を暴くために、
指示された執行役員の責任を軽減することは国民の理解を得ることができると判断し、
司法取引に応じたのではないかと思われます。
③
一方、法人としての日産も、
有価証券報告書の虚偽記載の罪により起訴されたとのことです。
司法取引は、会社が当事者となって行うこともできます。
(司法取引第1号は、三菱日立パワーシステムズの役員が外国の公務員に対して賄賂を贈ったことが罪に問われた事案とされていますが、この事案では、会社
が司法取引をしています。その結果、役員が起訴され、会社は起訴されませんでした。)
日産の事案においては、会社も起訴されたのですから、
会社は司法取引を行っていなかったものと思われます。
このような日産の会社としての対応が法的にどうだったのか
(司法取引を行っていれば起訴を免れ、罰金の支払いをする必要がなかったなどの点から損害が生じた場合、何らかの責任を負うことになるのか…など)
については、今後検討されることになると思います。
このように、司法取引をどのように利用するのかという点については、
今後の会社のコンプライアンス(法令遵守)、あるいはガバナンス(意思決定、合意形成のシステム)といった観点から、
とても重要になってくると思われます。
今回の事件は、まだ有価証券報告書の虚偽記載について起訴されただけの状態で、
今後、どこまで広がりを見せるかはわかりません。
ただ、司法取引が利用された事案として今後のニュースなどを見ていくと、
とても興味深いのではないかと思います。
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