【セットバックの効果】快適な生活環境のための街づくりルール

皆さまがお住まいの地域や昔からご存知の場所に「車がすれ違うのがやっと」というような細い道はありませんか。

こうした昔ながらの道は風情がありますが、実は「もしも」の時に大きな心配事があります。
それは、火事の時の消防車や、家族が急病の時の救急車が、家の前までスムーズに入ってこられない可能性があることです。

そこで生まれたのが、「セットバック(後退)」という街づくりのルールです。
これは、「建物を建てる土地は、原則として幅4メートル以上の道路に面していなければならない」という法律に基づいています。
4メートルというのは、まさに緊急車両が安全に通るために必要な幅なのです。

セットバックのイメージ

「セットバック」とは、具体的に何をするの?

もし、今お住まいの家やこれから購入しようとしている土地が、こうした細い道(幅4メートル未満の道)に面している場合に、将来家を建て替える、あるいは新しく家を建てるような時にこのルールが適用されます。

具体的には、「道路の中心線から2メートル」の位置まで、ご自身の敷地を後退(セットバック)させるというものです。
例えば道幅が3メートルしかない場所では、中心線は1.5メートルの位置ですので、そこから2メートル後退するため、ご自身の敷地の境界線を50センチ内側に下げることになります。

道路の反対側の土地は建て替えるまでそのままですので、実際には3.5メートルの道幅となりますがそれでOKです(理由は後述します)。

セットバックのイメージ

なぜ、自分の土地を後退させる必要があるの?

「自分の土地が少し減ってしまう」とご心配になるかもしれませんが、このセットバックにはご自身とご近所の皆さまの安全を守る、大切な意義があります。

「もしも」の時の安心のためにも、消防車や救急車が家の近くまでしっかり入れるようになります。
これは、ご自身やご家族の命と財産を守ることに直結します。

火事の「燃え広がり」を防ぐため 道幅が広がり、家と家との間にゆとりができると、万が一火災が発生した際に、向かいの家への「もらい火(延焼)」を防ぐ効果が高まります。

日々の暮らしを快適にするため 道路が広くなれば、日当たりや風通しも良くなります。
車の通行もスムーズになり、より安全で快適な生活環境が生まれます。
セットバックは、その道路に面した方々が建て替えのタイミングで少しずつ土地を出し合って協力し、将来の安全な道を作っていくという、いわば「未来へのたすけあい」の仕組みなのです。

 

知っておきたい、大切な注意点

もし、ご自身やご家族がご自宅の建て替えを考えたり、こうした土地の売買をご検討されたりする際には、知っておいていただきたいことがあります。

後退した部分は「敷地」として使えません。
セットバックして道路として提供した部分は、ご自身の土地ではありますが、家を建てるための「敷地面積」に含めることができなくなります。

そのため、建て替えの際は、以前よりも少し小さな家(建坪)になる可能性があります。
後退した部分には原則、モノを置けません。

その部分は「道路」と同じ扱いになりますので、家本体はもちろん門や塀、物置、あるいは花壇や鉢なども置くことはできません。

セットバックのイメージ

売買の時の注意点

これからセットバックが必要な土地を買おうとお考えの場合、お金の面で特に注意が必要です。
後退させなければならない「セットバック部分」は、家を建てられず、実質的に道路として使う土地です。

そのため、不動産の取引において、この部分の価値は「ゼロ円」として計算されるのが通常です。
にもかかわらず、不動産屋さんによっては、このセットバック部分も含めた「全体の面積」で売買価格(例えば「坪単価いくら」)を計算している場合があります。

土地を探す際は、「実際に家を建てられる有効な面積(セットバック部分を除いた面積)」を必ず確認し、その面積を基にして価格が妥当かどうかをしっかり判断することが大切です。
「見た目の広さ」や「登記の面積」だけで判断しないよう、くれぐれもご注意ください。

 

安心安全に暮らしていくために

このルールはすぐに道が広がるものではなく、何十年もかけて少しずつ街並みを安全にしていく、息の長い取り組みです。
ご自身の土地や購入予定の土地がセットバックを要する土地かどうかは、市役所や区役所の建築担当の窓口(建築指導課など)で確認することができます。

ご不安な点があれば、一度ご相談されてみるとよいでしょう。
皆さまがこれからも安全に、安心して暮らしていくための一つの知恵として、この「セットバック」という言葉を覚えていただけたら幸いです。

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土地家屋調査士法人白石事務所
土地家屋調査士法人白石事務所
土地家屋調査士は、不動産の表示に関する登記をお客様に代わって申請できる唯一の国家資格を持つ専門家です。不動産は高価な資産であり、正確に登記することが財産の保全にも繋がり取引の安全が計れます。当事務所では、昭和26年開業以来『迅速』『丁寧』『正確』をモットーにさまざまな業務を取り扱ってきました。豊富な経験を生かし、お客様が安心してご依頼いただける、まちの専門家であり続けたいと思っております。

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