地面師(じめんし)詐欺とは、他人の土地をあたかも自分のものであるかのように偽り、無関係な第三者に売却してお金をだまし取る犯罪です。
この詐欺は巧妙な手口と組織的な犯行が特徴で、被害額はときに数十億円に上ることもあります。
司法書士としてこの恐ろしい犯罪について、その手口、対策、そして法的な観点から解説します。
地面師詐欺の巧妙な手口
地面師詐欺の成功は、その周到な準備と役割分担にあります。
主な手口は以下の通りです。
①ターゲットの選定
犯行グループは、まず売買されやすい価値のある土地を探します。
特に狙われるのは、以下の土地です。
● 所有者が高齢で、長年その土地を管理していない。
● 遠方に住んでいるなど、所有者の居場所が不明瞭。
● 所有権者が複数おり、権利関係が複雑。
● 相続登記がされていないなど、登記簿上の情報が古い。
②偽造と成りすまし
次に、選定した土地の所有者になりすますための準備をします。
● 偽造身分証明書:戸籍謄本や住民票を不正に入手し、写真だけを差し替えるなどして精巧な偽造身分証明書を作成します。
● 印鑑証明書と実印:役所の窓口で不正に印鑑証明書を取得し、実印も偽造します。
● 成りすまし役:実際の所有者と年齢や容姿が似た人物を「成りすまし役」として雇います。彼らは、所有者の経歴や家族構成などを徹底的に記憶させられます。
③実行:司法書士の関与と契約
犯行グループは、土地の買主となる企業や個人を見つけ、売買契約を締結する段取りをつけます。この過程で、司法書士が重要な役割を担います。
● 売買契約の締結:成りすまし役が本物の所有者として振る舞い、買主と売買契約を結びます。
● 司法書士への依頼:契約後、買主側の司法書士に登記手続きを依頼します。司法書士は、本人確認と意思確認を行いますが、この段階で偽造された書類や成りすまし役の巧みな演技に騙されてしまうことがあります。
● 決済の実行:売買代金が支払われると、地面師グループは現金や小切手を受け取り、姿をくらまします。
● 司法書士が偽造を見抜けず、登記申請を受理してしまうと、買主は多額の金銭をだまし取られることになります。このため、司法書士には厳格な本人確認と職責の重さが求められます。
被害に遭わないための対策
地面師詐欺の被害を防ぐためには、関係者全員が警戒心を高める必要があります。
①土地所有者として
● 定期的な登記簿の確認:自分の土地の登記簿に不審な動きがないか、定期的に確認しましょう。
● 不審な問い合わせに注意:「土地を売らないか」といった不審な電話や訪問には安易に応じず、身元を確認しましょう。
● 実印と印鑑登録証明書の厳重な管理:これらの書類が不正に利用されないよう、厳重に保管しましょう。

②土地の買主として
● 登記簿情報と現地の確認:登記簿上の所有者情報と、現地の状況が一致しているかを必ず確認しましょう。
● 本人確認の徹底:売主の身分証明書だけでなく、複数の書類や、可能であれば所有者の家族などにも確認を取りましょう。
● 司法書士との連携:信頼できる司法書士に依頼し、本人確認を厳格に行うよう依頼しましょう。
③司法書士として
● 本人確認の厳格化:単に身分証明書を確認するだけでなく、複数枚の書類の提示を求めたり、過去の登記情報と照らし合わせたりするなど、より厳格な確認を徹底する必要があります。
● 所有者本人との面談:所有者本人と直接会い、登記の意思を丁寧に確認することが不可欠です。
● 関係者間の連携:不動産業者や買主側の司法書士と密に連携し、不審な点がないか情報共有することが重要です。
● 司法書士の責任と今後の課題:地面師詐欺の被害が拡大している背景には、司法書士の本人確認の不備が指摘されることがあります。しかし、司法書士もまた巧妙な偽造にだまされてしまう被害者の一面も持っています。

この問題の解決には司法書士個々の努力だけでなく、法務省や日本司法書士会連合会が一体となって対策を強化していくことが求められます。
例えば登記情報のデジタル化を進め、本人確認の精度を高めるシステムを構築することなどが考えられます。
地面師詐欺は、社会全体の信頼関係を揺るがす重大な犯罪です。
この記事を通じて、一人でも多くの方にこの詐欺の手口を知っていただき、被害を未然に防ぐ一助となれば幸いです。
投稿者プロフィール

- 昭和54年の開業以来一貫して「お客様第一」の姿勢を徹底しております。 進化する生活の町「武蔵小杉」を基盤にもっとも身近なリーガルアドバイザーを目指し、総勢35名のスタッフで業務を行っています。 お客様との「信頼関係」それが私たちの財産です。 これからも、お客様のおかげで私たちがあることを忘れずに、お客様第一主義 を徹底いたします。
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