人生100年時代を迎え、一社で定年まで勤めあげる、あるいは同じ雇用形態で働き続けるのはこれからは難しくなると予想されます。
長い就業期間の間には介護や病気などの事由で離職が余儀なくされたり、学生に戻り学業と両立するなど、多様な形での働き方が見込まれます。
そこで今後の社会・経済の変化を年金制度にも反映させて、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るために、年金制度改正法が6月に成立しました。
今回の改正は、70歳までの就業を目的とした改正高年齢者雇用安定法(令和3年4月1日施行)と深く関連しています。
そのため、年金制度の立て直しという視点だけでとらえるのではなく、「広く70歳までの就業を支えるうえでの改正」という観点からも対策を講じることが必要と考えています。改正は広範囲に及びます。

被用者保険の適用拡大
➀ 短時間労働者の適用拡大
現在、従業員数500人超の企業では、短時間労働者(週所定労働時間が週20時間以上30時間未満、月額給与8.8万円以上等の要件)も社会保険の加入対象ですが、今後は段階的に引き下げられ、令和4年10月には100人超、令和6年10月には50人超の会社も対象になります。
小売業、飲食業、医療・介護事業などパートタイマーの比率が多い会社では、社会保険料負担が重くなります。また、加入したくないパートタイマーとの勤務時間の調整が必要になります。
➁ 適用業種の拡大
現在、社会保険の強制適用事業所となるのは、法人と従業員数5人以上の個人事業所が対象です。例外として、弁護士や税理士等の資格を有する個人事務所は従業員数に関係なく強制適用ではありませんが、令和4年10月からは従業員数5人以上であれば強制適用となります。
➂ その他
厚生年金・健康保険の適用対象である国・自治体等で勤務する短時間労働者に対して、公務員共済の短期給付が適用されます。
在職中の年金受給の在り方の見直し
➀ 在職定時改定の導入
65歳以上で在職中の老齢厚生年金受給者は、退職等により資格を喪失するまで、年金額が改定されませんでしたが、令和4年4月より高齢期の就労継続を早期に反映させるために、毎年10月に年金額が改定されるようになります。
➁ 在職中の年金支給停止基準額の見直し
60~64歳の方で厚生年金に加入し、かつ老齢年金の受給資格のある人は給与額によって本来もらえる年金が減額されます(在職老齢年金)。
現行では標準報酬月額(月例給与)と年金月額の合計が28万円を超えると、超える金額に比例して減額が拡大しますが、令和4年4月からは28万円ではなく、65歳以上と同じく47万円を超えた場合に年金が減額となります。
60歳前半の方は年金の減額を気にすることなく、長い時間働けるようになります。
受給開始時期の選択肢の拡大
年金の受給開始年齢は原則65歳ですが、現行制度では60歳までの繰上げや、最大70歳までの繰下げが選択できるようになっています。
令和4年4月からは上限年齢が75歳に引き上げられます。令和4年4月1日以降に70歳に到達する方が対象です。
繰下げは1ヵ月につき0.7%増額になりますので、受給開始年齢を5年遅らせて70歳にすると42%、75歳だと84%も増額になります。
逆に繰上げは令和4年4月から1ヵ月につき0.4%減額になりますので、60歳から受給すると24%減額です。

投稿者プロフィール

- 社会保険労務士
- 当事務所は、従業員1名から上場企業まで幅広い企業様とお取引をさせていただいています。各社の企業規模や業種特性に応じて、適切かつ柔軟に対応できるのが強みです。また、経営理念として、人事・労務・社会保険業務を通じて、経営的な視点からお客様企業の(1)より良い企業風土づくり、(2)より強い企業体質づくり、(3)より業績の向上、につながるよう日夜努めています。
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