被相続人がお亡くなりになると、相続が開始します。
被相続人の財産に属した一切の権利義務は、原則として相続人が全てを承継します。
ただし、実務では遺産分割の基準時は相続開始時ではなく、遺産分割時なので、相続開始時には存在した遺産が遺産分割時にはなくなっている、または、少なくなっていることがあります。
その場合は遺産を減少させた相続人に対して、別途責任追及することになるでしょう。
ところで、相続人が承継する「一切の権利義務」のうち、何が遺産で、何が遺産でないのでしょうか。
当然に遺産になるもの
●不動産
●動産
●現金、預貯金債権
●株式、投資信託等
●不動産賃借権
●ゴルフの会員権
など、権利のうち多くは遺産になります。
このうち、不動産についてはおおまかに4種類の分割方法があります。
一つ目は現物分割といって、不動産を分割して分ける方法です。
しかし、建物を分割することは困難なことが多いので、ほぼ土地の分割の場合になります。
二つ目は代償分割といって一人の相続人が不動産を単独取得し、他方、他の相続人に対して「同人が取得すべきであった相続分に見合う金銭を支払う」という方法です。
三つ目は換価分割といって、遺産分割調停や審判を経て競売し、相続分に応じて換価する方法です。
四つ目は法定相続分で共有として任意で売却する方法です。
この方法は任意ですので、誰かが反対したら売却することができません。
また、預貯金債権については、遺産分割前であっても法定相続分の3分の1については裁判所の手続きを経ずに払い戻しを受けることができます(ただし、現在の同一金融機関の上限は150万円)。
遺産分割成立前に一定の金銭を必要とする相続人のための制度です。
そのうえ、裁判所は遺産分割の調停または審判が申し立てられた後に、一部の相続人に権利行使の必要性、及び、他の共同相続人の利益を害しない場合には、遺産分割前であっても預貯金債権の一部または全部を当該相続人に取得させることができます。
これを「預貯金債権の仮分割の仮処分」といいます。
遺産ではあるが原則として、遺産分割の対象とならないもの
遺産ではあっても、遺産分割を経ずに相続開始と同時に当然法定相続分に応じて相続されるものがあります。
それは、
●損害賠償請求権
●賃料請求権
●報酬請求権
などです。
ただし、これらの権利も全相続人が同意すれば、遺産とみなして遺産分割の対象とすることができます。
遺産にならないもの
これらについては、相続人が遺産分割の対象にしようとしてもすることができません。
多くは、相続人の一身専属権に属するからです。その他、権利の性質上、遺産とするのが適切でないものもあります。
●代理権
●使用貸借権
●組合員の地位
●扶養請求権
●財産分与請求権
●生活保護法に基づく生活保護受給権
●祭祀財産(ご位牌やお墓など)
●生命保険金
●死亡退職金(ただし、注意が必要)
などになります。
「使用貸借権」、つまり無料で家を借りている場合などは注意が必要です。相続人がそのまま借り続けたい場合には、貸主と別途合意が必要です。
生命保険金は保険会社との契約で受取人が指定されており、遺産にはなりません。
死亡退職金は、原則として遺産にはなりませんが、社内規定によっては遺産になる場合があるので、注意しなければなりません。
義務について
義務については、原則として法定相続分に応じて当然に分割されます。例えば、以下の義務についてです。
●借入金債務
●連帯保証債務
●損害賠償支払債務
●賃料支払債務
ただし、これらについても債権者の同意があれば、遺産分割の対象にすることができます。
わかりやすい例でいうと、不動産の所有名義人が借入金債務を残したまま亡くなった場合、不動産の所有権を相続する相続人が貸し付けをしている金融機関と話し合って、単独で借入金債務を相続するような場合です。
以上のとおり、被相続人が有していた財産には当然に遺産分割の対象となる遺産、当然には遺産ではないですが、話し合いによっては遺産分割の対象となる遺産、話し合いによっても遺産分割の対象とならない財産があります。
将来的なことを考えて、「誰が不動産を取得するか」、「誰がどの割合で預貯金を取得するか」、「義務は誰が負担するか」ということを事前に話し合うことも有益だと思います。
投稿者プロフィール
- 当事務所はさまざまな分野の法律紛争に対応しておりますが、案件としては相続事件がやや多めになっております。相続対策は早いほど効果的。気になることがある方は一度ご相談ください。平成25年4月 当事務所の弁護士たちで、東洋経済新報社より『新版 図解 戦略思考で考える「相続のしくみ」』を上梓しました。事務所は、アクセスの良い銀座一丁目駅にあります。まずはお問い合わせください。
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